風立ちぬ」という宮崎映画を観た.
零戦を設計した堀越二郎さんの人生を,堀辰雄風立ちぬに被せた話.


空や雲の書き方が美しくて,それはそれで満足だった.
でも,ストーリーは,というと一言で言うと,「妙齢のおっさんのファンタジー」.
二郎にも,菜穂子にも感情移入できないし,それ以外の登場人物を探そうにも,キャラが立っていない感じ.
ドラマティックな零戦設計の過程や当時のエンジニアの大変さとか,希望,矛盾をガッツリ描いて欲しかった.


もちろん面白い場面や,考えさせられる場面もあった.
一番印象に残ったのは,航空工学学徒とはいえ,当時の大学生には文学,芸術と「教養」があること.菜穂子と初対面のシーンで,フランス語で「Le vent se lève,(風立ちぬ)」と言われ,とっさに,「il faut tenter de vivre(いざ行きめやも)」って言っていた.ドイツの窓から蓄音機で流れてくるクラッシックを聞いて,すぐに曲を言い当てたりしていた.英語を使うのは朝飯前で,ドイツ語もそこそこ理解する前提.
戦前,戦中の大学生,またその教育を受けたエンジニアとはそういう存在だったんだよなと,しみじみ考えさせられた.二郎の会社の上司だって粗暴だが,即席の二郎と菜穂子の婚礼の儀で,それ相応の話し方をしていた.教養のある証拠である.
翻って,今の大学生,自分自身の教養の欠如が身にしみた.


菜穂子のくだりは男のファンタジー過ぎてなんとも...
元気いっぱいだった少女に,時を経て再会.美しくも明るい大人になっていて,まっすぐに二郎を見つめていて,そして結核という不治の病で,でも会いにきて,一緒に暮らして,そして面倒にならないようにと,自分から身を引いて亡くなってと.
おっさんのファンタジーも日本中で何十万人も動員して,億単位で稼ぐんだからたいした茶番である.