日大談話会

日時 2011年2月1日
柴藤亮介 (首都大学東京
演題「原子気体のボーズ・アインシュタイン凝縮と相分離現象」
要旨 1995年、 原子気体のボーズ・アインシュタイン凝縮(原子BEC)がJILAのグループによって実現された。BECとは、巨視的な粒子数が、一粒子状態を占 める現象で、粒子交換に関して対象なボーズ統計の要請により実現される。これは引力相互作用の助けを借りることなく起こる純粋に量子統計力学的な相転移であり、原子BECでは原子間相互作用の強さや系の次元などのパラメターを精微に制御することができる。本講演では、2成分の原子BECに原子間相互作用を制御するフェッシュバッハ共鳴を適応させ、その際に取り得る相構 造の可能性を理論的に考察する。


フェッシュバッハ共鳴という現象を使えば、原子間相互作用の調整ができる。
原子間相互作用の調整ができると、相分離(ここでは、液体-気体の相だけではなく、異なるオーダーパラメータを持つ波動関数も相として扱う)現象も
調整ができるよ、という理論的なお話。


ヘリウム4の超流動現象は、ボーズアインシュタイン凝縮(BEC)の結果として引き起こされると考えられている。
#どうやってBECを観測しているかというと、原子の運動量の分布に、大きなピークが現れることでわかる。
BECは相互作用のない理想的なボソン原子において観測され、ほぼすべての原子が同じ基底状態に落ちることで起こる、
ミクロな量子論(〜波動関数)的な効果をマクロな系として観測できる現象。
「凝縮」は、引力によって引き起こされていると考えるのが普通だが、BECではその引力などの相互作用がない場合で起こる。
なぜ原子が凝縮するのかというと、高温だと自由に動き回っていて、物質波を無視できる状態、すなわち"粒子性"が効いていたのが、
低温になると物質波の効果を無視できなくなり、"波動性"が効き始め、低温になる=エネルギー準位が低くなるので、個々の物質波が重なり合うために起こる。


そんな BECも理論としては分かっていても*1実際に観測できたのは1990年代*2とごく最近。
しかし最近ではBE凝縮体は、制御できるようになってきて、凝縮体を重ね合わせて干渉縞を作ったり、集団励起状態にさせたり、量子渦を作ったり、といろいろ報告されている。
その中ので理論的に起こるとしているのが今日のお話「相分離」、その手段としてフェッシュバッハ共鳴を使う。
ただ、現実問題としてはフェッシュバッハ共鳴を起こすフェッシュバッハ分子の寿命が非常に短いことなどが理由で、実現は困難らしい。


今後もBE凝縮体の実験から、面白い結果が期待でき、とれに伴い量子多体系理論も進むことが期待される、明るい分野。
実験、理論ともに研究スピードがものすごく早い印象。勉強になりました。


参考文献1
参考文献2

*1:1924年のボースからの手紙によるインスピレーションで、1925年アインシュタインが出した論文。

*2:1995年に2千個程度のルビジウム原子の集団で実現された。