集団追跡と逃避
下村淳、大平徹
日本物理学会誌 第66巻 第3号 p.205 (2011)


ふと目にとめた学会誌の「話題」に載っていた論文。
一言で言うと、二次元格子上で集団鬼ごっこ、をする話。
面白いのは、各人の間に相互作用がなくとも、あたかも相互作用をして群れが出現したりする点。


用意するもの

  • 二次元正方格子 (Lx × Ly)
  • 逃避者 (Nt)
  • 追跡者 (Nc)


基本ルール

  • 格子状のランダムなサイトに逃避者と追跡者を配置
  • 最も近い逃避者/追跡者Aを決定(ユークリッド距離)*1
  • 逃避者はAから遠ざかるサイト、追跡者はAへ近づくサイトを選択*2
  • 但し、選んだサイトに既に占有者がいた場合は移動できない
  • 追跡者が逃避者がいるサイトへ移動できた場合、捕獲
  • 捕獲された逃避者は系から取り除く
  • 系から逃避者がいなくなるまで繰り返し、かかった時間をTとする


発展

  • 基本ルールではなく、格子上をランダムウォーク(追跡者のみ、逃避者のみ、その両方)をした場合の比較
  • 追跡にかかる“コスト”の概念の導入、それにより最適なコストの存在が示される(図5)
  • 基本ルールに、ときどき誤り確率をいれた揺らぎの効果の検証


特に揺らぎの効果の検証では、分配関数に似た型で揺らぎの効果をいれ、
揺らぎの大きさを決めるパラメータは分配関数で言うと、温度に対応する部分。
温度が高くなれば、ランダムウォークに近くなり、低ければ基本ルールで動く。
そうすると、図6が示すように特に逃避者に対して追跡者が少ない場合には、
基本ルールではなく、多少揺らぎが入った方が全捕獲までの時間Tが、短くなる、という結果になる。
すなわち、最適な揺らぎ(温度)の存在が、相互作用など入れなくとも存在する状況となる。
これは十分追跡者が多ければ現れない現象。


なかなか簡単なモデルながらも面白い記事だった。
魚とか鳥の群れに捕食者がやってきた時の動きなんかを考える時、ヒントになりそう。
しかも相互作用が入ってもない状態で、面白い結果がでているところが驚き。
こうやって、1つ1つシンプルに組み立てて行く姿勢が好きだなぁ、と思った。

*1:同じ距離の人が複数いる場合はランダムに1名に絞り込む

*2:選択したサイトが現地から同じ距離の場合、等確率にサイトを選択