Speaker:  下川 倫子 (福岡工業大学 工学部 知能機械工学科)
Title: 粘性流体中を沈降する滴の変形現象

グリセリン水溶液中に比重の異なるグリセリンの滴を落とすと、滴は落下しながらトーラス状に変形した後、不安定化を起こし、複数の滴に分裂する[1,2]。分裂の数は二流体の密度差、滴の体積、溶液の粘性、滴の拡散係数で構成される無次元量で整理されてきた[2]。我々はグリセリン水溶液と硫酸鉄(?)n水和物水溶液の滴を用い、同様の実験を行った。本実験の密度差は従来の実験より1ケタ大きい。本実験においても滴の分裂現象が観察されたが、従来の丸い形状のままで分裂は起こらず、多角形に変形したのち、分裂が起こる。また、滴の分裂個数について2個から7個の分裂が観察されたが、4個以上の分裂については従来提案されていた無次元量で整理することができなかった。その理由として、無次元量の導出過程で滴にかかる抵抗としてストークス抵抗を仮定していることが考えられる[2]。この予想の検証のため、分裂の数n と分裂前後の滴落下の終端速度 v0, v1 の関係を実験で調べた。ストークス抵抗を仮定した場合、v1/ v0 ~n-2/3となるが、実験が示すv1/ v0はストークス抵抗が与える−2/3 乗ではなく、−1/6 乗とよく一致している。講演では、v1/ v0が−1/6 乗に従う理由について考察を行い、滴の変形機構を議論する。

[1] D'arcy Thompson, “On growth and forms”, Cambridge University Press (1961).
[2] F.T. Arecchi, et al., Europhys. Lett., 15, 429 (1991).

比重の異なる液体中に,別の粘度の高い液滴をたらすと,ゆっくり落ちる.そのときに落ちてきた液滴は,2つに分かれたり,3つに分かれたりと,複雑だけれど,何か規則性のありそうな動きをする.このときの規則性(~スケーリング則)は,「分裂の数は二流体の密度差、滴の体積、溶液の粘性、滴の拡散係数で構成される無次元量で整理されてきた」ということだ.そんなハイスピードカメラもない時代から,そこをじっとり観察して,規則性を見いだしてしたことにまず驚く.
しかし,この研究ではさらにこの研究の先をいって,当時の規則性では説明することのできない性質がおこった.まず,丸い円状ではなく,多角形に液滴が分かれて分離していったこと.さらにその多角形の先から,フラクタル的に同じ三角形なら三角形の多角形ができた.もう一つは,1961年からの規則性の相図では理解できないエリアが現れた.それに対して,考えられる要因,速度とかいろいろ変えて実験したとのこと.


まだ,きれにまとまっていない話だが,それを含め,満員御礼の教室から特に専門の人から活発に議論がなされていて,よくわからない部分もあったが,とても楽しい時間だった.私と田村君的には,実験が職人芸的なのはよくわかったが,それを荒くでもシミュレーションできないんだろうかと,思った.聞いてみたところ,流体×流体の実験はまだまだ難しそうで,どれをもって「再現できた」というのかというゴールも設定できないのだとか.
ともあれ,日大理工(中原研)出身の彼女が,千葉大(北原研)をへて,現在は福岡で1人で学生を7人も指導する立場になっていたのには刺激された.