物理講義 湯川秀樹


本書は昭和49年3月18日から3日間,東京の駿河台にある日本大学理工学部で行われた講義の全録.
講義は日大に限らず,都内の各大学へ公開され,大学院生を中心に約100名の聴講者を対象に,「物理学概論」というタイトルで行われたとのこと.(但し,湯川さん本人はそうではなかった模様.)内容は関西風の話口調.

私の講義は初めから申しておりますように,これはまったく物理学概論ではありません.まあ極端に言えば,物理学についていろんなことを話すということです.
(中略)
自分が物理をやろうと思うなら,それがどういうふうに創られてきたかをもう一度考えてみる.あるいは,われわれが今考えてみるならばもっと非常に違う見方ができる.こういうところに,これから創ろうとしている物理と大変つながるものがある.


ニュートン力学からアインシュタイン相対性理論,そして量子力学と,歴史にそって次々に,
「教科書にはあまり書いていない」概論が展開される中で,湯川さん自身の世界観というか,考え方が入ってきていて興味深い.
例えば科学者を,孤立型,対話型,集団型と分類してみたり,最近のカリキュラムは多すぎると嘆いてみたり.

私は,カリキュラムが多いのは,多分性悪説だと思うんです.人間というのは時間に余裕を与えたら碌(ろく)なことをしない.だからなるべく教室に縛り付けといたほうがいい,というのが性悪説です.
私のころの教育は性善説で,宿題なんかなにもない.
(中略)
人間というものは,全然勉強せんでもいいと強制されなくなるとかえって勉強するものだと私は思います.
(中略)
勉強するにも,あまり本は読まんほうがいい.なぜかというと,せっかく自分で発見出来ることが本に書いてあるんで,本を見てそうかと思ってしまったらこれはつまらん.


本の最後には,軽粒子の質量や寿命をまとめた表とか,出てくる用語「質点」「コペンハーゲン解釈」とか「第二量子化」まで簡潔にまとめられていて便利.

物理講義 (講談社学術文庫)

物理講義 (講談社学術文庫)