ハーモニー/伊藤計劃

虐殺器官」で言葉に組み込まれた虐殺の文法,を取り上げた作者の作品.
ハーモニーが繰り広げられる未来の世界では,「定常状態」になった大人には
「生府」によって体内にナノチップ組み込まれ,常時健康を監視される.
タバコやアルコールは体に悪いので,もちろんNG.
でも,ガンの早期発見や肥満予防などに効果を発揮して,みんな幸せに長生きできる.
それが本当の幸せかと反抗し,チップを組み込まれる前の非定常状態の3人の女子高生は,
自殺を計るも,未遂に終わる.1人を除いて.


その1人は元々は自意識というのを持たないという,特殊な民族の出身で,
内紛のごたごたで痛めつけられる中,突如,「意識」を得た.
#耳が聞こえないのが普通,という人々の住む島がアメリカにはあったらしい.

そして,彼女はついに人類の意識をコントロールするアルゴリズムを走らせる
黒幕となる.彼女は死んでいなかった.
意識をコントロールするといっても,人類が誰かの奴隷のように動くという世界ではなく,
すべてが,自明なハーモニーの取れたそれは平和な世界だ.


現在の社会があらゆる場面でモニタリングされ,大規模データなどともてはやされ,
さらには,体内の微細な状況もモニタリングされる状況を鑑みるに,
まったくの妄想の世界ではないのでは,と感じる.
自分の意識とは一体何なのか,高校生の時に考えたことを思い出した.
その,まったく無意味で,突飛なことをしてみたい衝動を,本を読むこと押さえていた.
例えば,村上龍の小説とか,突飛なことをする女子高生の話とか.


私はデータは好きだし,役に立つと思っている.これからも,そう世界は動くだろう.
できるだけその自明の意識に漸近したいと,データを眺めるのが好きだ.


けれども.私自身は,第三者が見て自明と思える「データ」ではなく.
本当に,人がが強い衝動をもって動き,それは第三者が見て自明とは思えない.
そこに,生き物としての輝きがあると思っている.多分,それは動物にもある.


ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

魚のように (河出文庫)

魚のように (河出文庫)

限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)