うわさとデマ
ニコラス・ディフォンツォ (著)/江口 泰子 (翻訳)

原著は,
The Watercooler Effect: A Psychologist Explores the Extraordinary Power of Rumors
Nicholas DiFonzo
ロチェスター工科大学心理学部教授.2008年1月に原著の初版.


うわさというものはかくも奥が深いものかと思い知らされた.
デマ問題は社会心理学のフィールドで古くから扱われていたらしい.

ネガティブな噂の方が広がりやすい「ネガティブバイアス」.
噂には3種類あって,「願望の噂」「恐怖の噂」「くさびを打ち込む噂(憎しみの噂)」.
ゴシップと噂の違い.ゴシップは個人のプライベートな問題を扱い,噂は大きな関心ごとを扱う.噂は情報の補完など脅威に対処することが多いが,ゴシップは個人間のコミュニケーションの潤滑油として作用する.文化人類学者のロビンダンバーはゴシップを猿の毛づくろいに例えた.


不安が噂を広める,という心理実験も行われ,証明された.(The effect of state anxiety on rumor transmission.先週チェックした論文.)
その他にもコンピューターウィルス(実際はウィルスではないが,そうと広まったデマ)では,以下のような「助けたい」心理も働いたとされる.

人が行動を起こすとき,そこに他者や集団を助けたい,誰かの役に立ちたい,と動機が働くことがある.心理学者はそれを「向社会的動機」と呼ぶが,その動機がほんとうに他者のためなのか,それとも自分のためなのかについては意見の分かれるところだ.
(中略)
噂を伝えれば,話し手の地位が一時的にしろ引き上げられる.しばし情報通か,ちょっとした権威に思ってもらえる.


心理学の少数の実験で証明されてきたことを,大規模データでも実証できるか,というのは新しいフィールドが開けるかどうかの肝になる気がしてきた.

本書で何度も引用されていた,「噂の流布量=話題の重要さ×状況の曖昧さ」を定義したオルポートとポストマンの「デマの心理学(The Psychology of Rumor)」は古典的名著らしい.次に読む予定.

うわさとデマ 口コミの科学

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