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ことばの起源 ― 猿の毛づくろい、人のゴシップ
ロビン ダンバー (著), Robin Dunbar (原著), 松浦 俊輔 (翻訳), 服部 清美 (翻訳)
ダンバー数*1で有名なダンバー教授の本.引用文献も充実.ダンバーさんは現在も精力的に研究中.主に携帯電話のデータを使って,人間のコミュニケーションを測定しようとしている模様.
例えばこれとかこれとか.
言語の起源は,しばしば手段で狩りをする時のための合図だとか,あっちに食料があるという情報交換だとかそういう生き残るための直接の必要性でもって,発達してきたと言われている.
しかし,ダンバー教授によるとそれは,直接のご利益があるものではなく,群れの中で私とあなたは味方同士ですよ,と知らしめるための毛づくろいである.毛づくろいを,高度に効率よく発達させてきたものに過ぎないと.
その証拠に,実際に会話されているないようの半分以上は,天気の話題だったり,人のうわさ話だったりと知識の交換というよりも,他愛ないものが締めているではないかということ.
こういった社会的相互作用に費やされる時間は,12時間の3時間程度(男性3.5,女性2.7)であると.
ダンバー教授は性差にも興味があるようで,彼の主張によれば言語を発展させてきたのは女性である.
男性はクジャクのように,自分の宣伝に従事しているのに対して,女性は社会ネットワークの構築に多くの時間を割く.それは生物としての女性の仕事である子育てに必要な環境を構築することと同義である.そこには感情的に辛い時の心理的な支援なども含まれる.
実際,会話を録音して分析すると,会話の65%を占める社交上の話題のうち,比較的若い被験者グループでは,女性は他人の経験や行為について2/3の時間を費やすのに対して,男性は2/3を自分の経験や行為について費やす.
さらに,男性だけのグループから,男性が男女混合グループに入ると,仕事や学術問題といった高尚な話題に着いて話す時間が目覚ましく増える.対して女性はほとんど変わらない.
なんとなく,「あるある」と思ってしまった.
他にも一体感を持って会話に参加できる限界の数は4人だそうだ.それ以上だと分裂して,隣の人と関係のない話題に走る.これもあるある,だった.
とあるテレビ局のプロデューサーの話.彼女の部隊には偶然にもダンバー数と同数の150名のスタッフがいて,組織として非常にうまく機能していた.ところが職場の立て直しをきっかけに,すべてが崩壊した.理由は,新しい建物に,みんながサンドイッチを食べていた休憩室を贅沢品だからという理由で作らなかったこと.これがスタッフ間に存在していた社会ネットワークを壊す結果になり,結果として仕事がうまくまわらなくなったということらしい.
ダンバー教授はさすがイギリスの文化人類学者,豊富な知識を武器に,深い洞察を加え,さらにヒヒなどの観察結果や被験者実験結果で仮説を検証し,とやっていることがなかなかエキサイティング.
特に最後の2つの章「生活のちょっとした儀式」と「進化の傷跡」が面白かった.前半もダンバー数の根拠となった図もあるので必見.
- 作者: ロビンダンバー,Robin Dunbar,松浦俊輔,服部清美
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1998/10
- メディア: 単行本
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