Observability of complex systems
Yang-Yu Liua, Jean-Jacques Slotine, and Albert-László Barabási
PNAS vol. 110 no. 7 2460-2465 (2013)

いかに少数ノードから全体を把握するか,という可能性についての論文.詳しく読んでいないし,何やらややこしそうなのでパス.
特に体内ネットワークは化学反応の組み合わせのようになっているので,A->Bであれば,Aの情報だけでBがわかる.その組み合わせで少数の「sensors that are necessary to reconstruct the full internal state of a complex system」を探し出す.
Natureの解説記事もあるように,「少数から全体を予測する」応用の幅も広い(特に医学)新しい研究課題になりうる.


経済物理の結果として,上位10%の情報で,必要な為替変動の動力学的な部分が切り出せるというのがあるが,それに似ているかもしれない.為替の場合は,残りはノイズで,情報の再構築に必要なのは分布のテイルに相当する,大きな変動が為替のダイナミックな部分を決めているという結論.少し違うのは,今回の結果(提案?)は残りはノイズではなくて,ネットワークで「芋づる式」に決まるという点.


また,昨日の研究の話をした時に「大規模なのは分かった.小規模であればどうか?」という話があったが,それとも関連しそう.もし,全体(書き込んでいる人たち)の間にネットワークがあれば,かなりの小規模で同様の結果が得られることが期待できる.ただし,それは,ネットワーク上にハブが存在している場合に.これは,小規模で全体を再現できるのであれば,ネットワーク有り,出来なければネットワーク無しという判定にも使えそう.ランダムにノードを選んだのでは再現ができないので,ノードの選び方にも工夫が必要だろう.そういった全体を再現するのに必要なノードを「sensors」と言っていて,本論文で最も大事なトピックなのは分かった.


さらに,統計数理 第60巻第2号239−250(2012)特集「多様性と進化の統計解析」において,増田さんもネットワーク構造の統計的な推定手法についてで同様のことに言及している.

ネットワークの不完全な観測データに基づいて,ネットワーク構造を推定する,という問題が,統計学の応用が期待される喫緊の課題であると思われる.ネットワーク科学の研究全体も,モデルを提案して解析して理論や個体ベースの数値計算(例えば進化ダイナミクスの進行を直接数値計算すること)で閉じた研究を行うことは一段落して,大量のデータをどう扱うか,不完全なデータから何を結論するか,という研究に重心が移ってきているように感じる.ネットワークという研究分野がこれから 10 ∼ 20 年の範囲で真に実用的な価値を出すためにも,実データと向き合うことは避けて通れない.