永遠の0百田尚樹

こんなにのめり込んで読んだ本は,本当に久しぶり.同じ作者の海賊と呼ばれた男より,さらに,のめり込んだ.


終戦間際に特攻でなくなった,血の繋がった祖父,宮部久蔵をたどる姉弟.証言する人々を繋ぐうち,徐々に浮かび上がる魅力的な祖父の姿.そして最大のキーマンは血の繋がっていない現在の祖父だった.彼らをたどるうち,姉弟それぞれが姿勢を正し,自分を見つめ直して変わって行く,という話.


私は第二次世界大戦の末期の南方戦線や,神風特攻隊,沖縄戦の話はあまりにも悲惨で,読むと涙するのも分かっているので,映画も小説も注意深く避けてきた.それでも偶然,沖縄に新婚旅行へ行く直前,届いた.読み出したら止められなくて,行きの飛行機と,着いてからのホテルで一気に読み干した.それは,この本がただの悲劇的な本ではなく,ミステリーのように,次々に明らかになる真実.そして知れば知るほど,魅力的な主人公のことを,私自身が,もっと知りたいと思ったから.
さらにこの本が秀逸なのは,細心の注意を払って,事実に基づいて書かれている点.飛行機の型式,実在の射撃の名手,階級,予備学生の仕組み,地名,桜花がBaka Bombとしてアメリカのスミソニアン博物館に展示されていることなど.
特に,桜花の話は涙が止まらなかった.アメリカがそんな名前で展示するという屈辱が許せない.と,夫に話すと「あれは本当にバカだ」と一蹴された.彼自身もこの本を,ほぼ同時に読んで分かっていて,別に悪気がある訳ではないのは分かっているが.亡くなった方のことを思うと,亡くなってもなお,屈辱を味あわないといけないのかと思うと,本当にやりきれない.アメリカという国に心底嫌気がさした.


きっと,筆者が主張したかったことは,ざっと以下の点ではないかと思う.

  • 特攻隊はテロリストではない.(無差別テロとは全く別.敵軍だけをターゲットにしていた.)
  • 日本全体が集団ヒステリーで自暴自棄になっていた訳ではない.洗脳されていたわけではない.
  • 命を大切に,家族を大切に.


特に戦後のアメリカ主導の教育を受けてきた私たちは,知らず知らずのうちに,馬鹿な日本国幹部の暴走に,無抵抗で従順な国民が振り回され殺されたという目で見てきた.でもやっぱり,そもそもの戦争を始めた原因は,欧米支配にあり,軍人となった国民を殺したのも,原子爆弾や空襲で無抵抗な子供を殺したのも相手国であるということを忘れてはならないと思った.


私が好きなシーンは,自分の祖父の証言の現場に半ば強引に立ち会わされた金髪の青年が号泣したシーン.強面の舎弟が図らずも組長の証言を聞いて,最後に「いい話を聞かせてもらえました」というシーン.きっと若い彼らが私たちではないかと思う.そして,証言した人たちが望むことは,そんな彼らが,正しい歴史を身につけ,背筋を伸ばして,現在の平和な社会に感謝し,やりたいことを,思い切りすることではないかと思う.
Amazonのレビュー数も500件を超えているのも分かる.

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)