統計数理研究所研究会「社会物理学の展望」

日時:2011年1月6日
会場:統計数理研究所(立川キャンパス) セミナー室5(3階)

  • 佐々木顕(総研大)「動物社会における協力行動の進化」
  • 三隅一人(九大比文)「意味了解メカニズムへの数理社会学的接近」
  • 林幸雄(北陸先端大)「空間的階層とネットワーク自己組織化」
  • 大西立顕(キヤノンIGS,東大),高安秀樹(ソニーCSL)、高安美佐子(東工大) 「企業間の取引関係にみられるネットワーク構造」
  • 山本 健(早稲田大)「二字熟語のネットワーク解析」
  • 関 和彦(産業技術総合研究所)「市民マラソン大会におけるゴール時間分布」
  • 小田垣孝(東京電機大)「社会現象における自己平均性の破れ」
  • 田中美栄子(鳥取大)「商取引モデルとしての囚人のジレンマ
  • Thomas Lux(Professor of Economics, Kiel Univerrsity, Germany)「Identification of Core-Periphery Structures among the Participants of a Business Climate Survey」


個人的に興味深いなあと思ったのが、佐々木さんの動物における「協力」の進化。
プレーリードックは、仲間と暮らしていて、伸びあがって外敵を察知すると、
声を上げて仲間に知らせる。この行動は、自分自身を危険にさらしながら、
仲間を守る「利他行動」の典型例。自分の遺伝子だけを残すことを考えると、
利他行動は一見、矛盾しているように思える。しかし、古くはJ.B.S. Haldaneが、
「2人の兄妹、4人の甥、8人のいとこのためなら喜んで命を差し出すだろう」
と、言ったように、「自分の遺伝子がどれだけ似ているか?」という血縁度を考えると、
その結果は、利他行動をとりうる。
これを血縁選択説という。
女王とワーカーが存在する、アリ等の真社会性の生物の行動も、この血縁度を考えることで、理解できる。
その後、タカハトゲームや囚人のジレンマに代表される
さまざまなシミュレーションが行われ、ゲーム論による説明もなされている。
最近では「間接的互恵性」という、社会情報(噂、第三者の情報)を、用いて、
相手の評価を変えた場合、ゲームがどうなるか、という話題が注目されているらしい。


もう1つ面白かったのは、関さんの市民マラソン大会のデータを使った話。
市民マラソン大会では、出場者のゴール時間などがウェブ上で公開されている
ことが多いらしい。さらに、最近ではゼッケンにICチップを埋め込んで、
詳細なデータを取り、ラップタイムさえもとれる場合もあるとか。
それで、単純に距離÷ゴール時間で、市民ランナーの速度分布をだすと、
正規分布になるらしい。時々、テイルが伸びるのは、招待選手。
関さん自身が、産総研の研究員でありながら、市民ランナーであることから、
今回の発表に至ったらしく、なんだかいい発表だなあと思った。
ニューヨークマラソンとか、実は海外でもこの手の解析がなされているらしく、
紹介されていたのは、
"Crowding at the Front of Marathon Packs",
S. Sabhapandit, S. N. Majumdar, and S. Redner, J. Stat. Mech. L03001, (2008)
という論文。