選択の科学 (The art of choosing) /シーナ・アイエンガーSheena Iyengar


コロンビア大学ビジネススクール教授による,「選択」に関する研究のまとめ本.
選択,今日何時に起きるか,どのジャムを選択するか,新生児の生命維持装置を外すか,
何色の車を買うか,果ては自分の人生を終わらせるか否かまで.人の生活にはとにかくたくさんの選択が関わっている.
その選択を,国籍によって選択の仕方が変わるのか?,選択肢が何個くらいあれば最適か?*1,どういう選択の方法をした時に満足度が高いか等,様々な切り口で研究すべき謎があり,その最前線が分かりやすく語られている.


彼女は心理学者で,自分は心理学の論文や研究にあまり関わりがなかったが,研究手法は科学的で論理的であり,とても分かりやすいものだった.(問題設定→実験→考察→次なる問題,というサイクル.)
特に,読み始めるときは最終講からスタートすると良いかもしれない.奥深い「選択」について,存分に語られている.

選択というプロセスは,ときに私たちを混乱させ,消耗させる.考えるべきこと,担うべきことがあまりにも多すぎて,安楽な未知を選びたくなるときがあったとしても,無理はない.選択にこれほどの力があるのは,それがほぼ無限の可能性を約束するからにほかならない.しかし可能性は,未知でもある.選択を利用して自分の思い通りに人生を変えることもできるが,それでも人生は不確実性に満ちている.それどころか,選択に力が宿っているのは,世界が不確実だからとも言える.もし,未来が既に決まっているなら,選択にはほとんど価値がなくなる.だが選択という複雑なツールだけを武器に,この不確実な未来に立ち向かうのは,わくわくすると同時に,怖いことでもある.自分の決定がどんな結果を招くのか,前もって知ることができれば,どれほど心が安まるだろう.

そして,新米弁護士レイチェルのジレンマ.

夫がたまたま子供が生まれる予定の弁護士と見られるのに対し,彼女は浮ついた頭の弱い母親が片手間に弁護士稼業をやっているとしか,見てもらえなくなる.彼女はまるで自分が,単純なクローン人間と入れ替わったかのように感じた.これまで並々ならぬ労力を費やして築き上げてきた自分像が.根底から覆されるような気がした.


心理学の研究の資料として,分かりやすく文献もまとめらているだけではなく,また自分の仕事の仕方,生き方を考える上でもいろいろな方向から読める良書.

選択の科学

選択の科学

*1:多すぎる選択肢は売り上げを下げる,という有名なジャム実験.元論文は多分これ.When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing